院長ブログ
“血液だけ”でがんを調べられる時代へ:Ark-Test
2025.6.3
みなさんこんにちは!院長の廣瀬です。
近年、人間の医療と同じように、犬の世界でも「がんの早期発見」が注目されるようになってきました。とくに「血液検査でがんのリスクがわかる」新しい技術の登場により、より早く、より負担の少ない方法で愛犬の健康を守ることが可能になってきています。
がんは、犬の死因のTOP(約54%)です。つまり、2頭に1頭は癌で亡くなりますしかし、症状が出てから見つかるケースが多いため、診断されたときには進行していることもしばしば。だからこそ、「まだ症状が出ていないうちに見つける」ことがとても大切なのです。

そうした中で、今回ご紹介するのが、
- Ark-Test(アークテスト)という血液がん検査です。
採血だけでがんのリスクを調べられる最新の検査で、すでに日本の多くの動物病院で導入が進んでいます。当院でも、導入しはじめていますので、自分の言葉でご説明したいと思います。
検査の特徴や、どんな子に向いているのか、わかりやすく解説しようと思うのですが、複雑になっている部分もありますので,がん検査が気になる方はお気軽にご相談ください。
目次
がんリスク検査って何を測っているの?
miRNA(マイクロRNA) ― 検査原理の超かんたん解説
Ark-Test(アークテスト)は、日本で開発された、がんを早く見つけるための新しい血液検査です。特徴は、「miRNA(マイクロRNA)」という物質を使って、がんのサインを見つけることです。
◆ miRNA(マイクロRNA)ってどんなもの?
miRNAは、体の中で遺伝子のスイッチをON/OFFする小さな物質です。がん細胞は、このmiRNAを**「エクソソーム」という小さなカプセルに入れて、血液中に流します**。
◆ Ark-Testは何をしてくれるの?
このがん細胞が出す「サイン」=miRNAを、血液から見つけ出してくれるのがArk-Testです。つまり、がんがあるかどうかを、体の中のサインを読み取って調べる検査です。
◆ 採血だけでOK!
この検査は注射で血液を取るだけなので、体への負担がとても少なく、高齢のワンちゃんや、持病がある子でも安心して受けられます。
◆ 日本発!世界に先がけた技術
Ark-Testは、日本で初めてmiRNAをがん検査に活用した、最先端の検査技術です。miRNAは、ノーベル賞にも関係する研究から注目された物質で、世界中で期待されています。
簡易版と詳細版の2種類の検査が選べる!
Ark-Testには目的に応じて選べる2種類の検査があります。
1)Ark-Test がんリスク検査(スクリーニング;簡易)
- 目的:がんが体内に存在するリスクが高いかどうかをチェック
- 結果:陽性/陰性 の2段階
- 感度・特異度:いずれも約91〜92%
- 費用:比較的安価で、定期健診に組み込みやすい
2)Ark-Test 詳細版(12種類のがん特定検査)
- 目的:がんの種類や推定ステージまで特定
- 対象がん種:以下の12種
- (肝臓がん、肺がん、乳腺がん、リンパ腫、血管肉腫、肥満細胞腫、骨肉腫、口腔内メラノーマ、鼻腔腺がん、膀胱がん、肛門嚢腺がん、扁平上皮がん)
- 感度:がん種により90%以上の精度
- 結果:がんの疑い有無+がん種推定+ステージの目安
- 費用:やや高額。疑うがんの種類によって、1種類〜13種類のセットがあります。
※12種を一度の採血でチェックできます。この12がん種で、犬に発生する腫瘍の60〜70%近くをカバーできます。
検査の精度は?
感度、特異度ともに、ここまでしっかり検査できるものは少ないです。とても信頼性の高い検査と言えるでしょう。しかし、検査の性質をしっかり理解して、結果を受け止めなければいけませんので、検査結果が陰性/陽性と出ても、獣医師と必ず今後について話をする必要があります。ご相談ください。
がんの種類 | 感度(見逃しにくさ) | 特異度(陰性の信頼度) |
---|---|---|
悪性リンパ腫 | 100% | 100% |
血管肉腫 | 97% | 97% |
口腔内メラノーマ | 96% | 100% |
肝臓ガン | 94% | 100% |
骨肉腫 | 92% | 82% |
肥満細胞腫 | 90% | 90% |
扁平上皮癌 | 86% | 75% |
乳腺がん | 75% | 75% |
尿路上皮がん | 84% | 90% |
肺腺癌 | 89% | 94% |
鼻腔腺癌 | 95% | 85% |
肛門嚢腺がん | 91% | 95% |
がんリスク検査 | 91% | 92% |

Ark-Testのメリットと限界
★メリット
- 犬に負担がない(採血のみ)
- 幅広いがん種を高感度にスクリーニング
- がんの部位や進行度が推定できる(詳細版)
- 無症状の段階で見つけることが可能
★限界
- 12種類以外の希少ながんはカバー外となる場合あり
- 結果はあくまで“補助的な判定”であり、確定診断には追加検査が必要
ケーススタディ:実際に見つかったがん
ケース1:食欲不振で受診→血管肉腫
食欲不振でArk-Testを実施した11歳のラブラドール。血管肉腫の陽性が出たため超音波検査を実施し、脾臓の腫瘍を早期発見。手術で無事に摘出できました。
ケース2:健診で実施→無症状のリンパ腫
年1回の健康診断にArk-Testを追加。まったく症状がなかったが陽性反応が出て、追加のリンパ節検査で初期のリンパ腫と診断 → 早期治療により良好な経過。
ケース3:下顎骨片側全摘出しなくてよくなった症例(当院症例)
他院にて口腔内腫瘍が見つかり、CT検査で骨への浸潤が認められました。生検では明確な診断が得られず、悪性黒色腫の可能性があるとして、片側下顎の全摘出術が提案されました。
セカンドオピニオンとして当院を受診され、Ark-Testによるがんスクリーニング検査を実施したところ、がんを示す反応は見られませんでした。この結果をふまえ、治療方針を局所摘出術へ変更しました。
摘出後の病理結果では、「骨形成性エプリス(腫瘍性病変は認められず)」と診断され、局所的に切除すれば完治が見込まれる病変でした。
がん検査を活用することで、不必要な大がかりな手術を回避することができました。
よくあるご質問(FAQ)
- 検査にかかる費用は?
→ がんリスク検査:15,400円(税込;送料別)、詳細版:16,500〜71,500円(税込;送料別);検査数によって変わります)※2025年5月現在。がんリスク検査は、健康診断期間中は、ベースの健康診断セットに追加で、12,100円(税込;送料別)になります。 - ペット保険は使えますか?
→ 健康診断目的の場合は対象外となることが多いです。腫瘍やイボなどの症状があれば、保険適用になる可能性が高いです。ご相談ください。 - 結果が陰性なら安心していい?
→ 精度は高いですが、100%ではありません。気になる症状があれば追加検査をおすすめします。
健康診断オプションとしての活用法
年1回の健診で「がんリスク」を可視化する意義
定期的な血液検査にがん検査を追加することで、発見のタイミングが「症状が出て」から「症状が出る前」に変わります。ペットが苦しむ前に見つけて対処ができ、その対処方法も早期であれば、選ぶことができます。また、健康な状態で見つかるため、手術や抗がん剤によるリスク、副作用を軽減できます。
当院おすすめ“基本健診+がん検査”セット
- フィラリア検査・血液スクリーニング+Ark-Test【健康診断特別価格;15,400円→12,100円(税込;送料別)】
- 秋の健康診断セット+Ark-Test【健康診断特別価格;15,400円→12,100円(税込;送料別)】
- 春や秋の予防シーズンに合わせた実施を推奨
検査結果が陽性(C判定)/グレー(B判定)だったらどうする?
C判定
→「がんの可能性が高い」と考え、対象臓器に応じた追加検査を実施。
B判定
→「がんのリスクあり」と考え、1〜2ヶ月後に再検査。
検査の受け方と当院のサポート体制
- 予約方法:電話・WEBで予約可。予防接種やフィラリア検査と同時にどうぞ。
- 結果説明:院長より丁寧にご説明
- 費用対応:クレジット・電子マネー可。保険加入の有無もご相談ください。
- まだ導入したばかりの検査のため、当院での検査キットの在庫が限られています。検査をご希望の際は、事前にお電話でご確認いただくのが確実です。検査のご予約が重なった場合、在庫切れにより当日検査をお受けいただけないことがございますので、あらかじめご了承ください。
検査の流れ:採血から結果が届くまで
- 絶食状態での採血(前夜8時以降、絶食)
- 検体を冷却保存し、専門機関に送付
- 1日〜1週間程度で「陽性/陰性」「がん種の推定」を含む結果が返送されます
検査可能日
採血のみで行えますが、繊細な採血、検体処理が必要なため、再度採血が必要になる場合があります。また、木曜日、金曜日、土曜日の午前中は輸送日数,保管期間などの関係から、検査がお受けできないか,おすすめできません。
検査可能日 | |||||||
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日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | |
午前 | ⭕️ | ⭕️ | 休診 | ⭕️ | ❌ | ❌ | 🔺 |
午後 | ⭕️ | ⭕️ | 休診 | 休診 | ❌ | 🔺 | ⭕️ |
まとめ ― 迷ったらまず相談を!
愛犬が元気でいるうちにこそ、できる備えがあります。
血液検査でがんのサインを早めにキャッチし、必要なら追加の検査につなげることで、病気の進行を防いだり、治療の選択肢を広げたりできます。
「この子は検査が必要かな?」「費用はどれくらい?」と迷ったら、ぜひお気軽に当院までご相談ください。
皆さまの大切なご家族の健康を守るお手伝いができれば幸いです。
参考文献
- メディカル・アーク社公式資料
- JBVP 2023年講演要旨
- Newsweek日本版(2024年10月)
【患者様へ】
血液でがんの兆候がわかる時代が、いよいよペット医療の現場にもやってきました。このような検査で、ワンちゃんに最適な予防・診断の選択肢を提案していくことが、これからの動物医療に求められています。
定期健診や体調変化の際には、ぜひこうした先端技術の活用も検討いただき、家族の一員である大切なパートナーを守ってあげましょう。