院長ブログ
【獣医師解説】犬種・体重別の避妊去勢手術の推奨時期とは?
2025.3.9
犬の避妊・去勢手術は、繁殖を防ぐだけでなく、健康を守るためにも重要です。しかし、手術のタイミングによっては関節疾患やがんのリスクに影響を与えることが最新の研究で分かってきました。
今回は、個人的にこの数年間で1番衝撃を受けた、カリフォルニア大学デービス校(UC Davis)の研究「Assisting Decision-Making on Age of Neutering for 35 Breeds of Dogs」と「Assisting Decision-Making on Age of Neutering for Mixed Breed Dogs of Five Weight Categories」をもとに、犬種や体重ごとに推奨される避妊・去勢手術の時期について詳しく解説していきます。
目次
避妊・去勢手術のメリット(簡略)
✅ 望まない繁殖を防ぐ
✅ 一部のがん(精巣腫瘍・乳腺腫瘍など)のリスク低減
✅ ホルモンによる行動問題(攻撃性・マーキングなど)の軽減
詳しくは「避妊(不妊)手術と去勢手術って何でするの?」へ
避妊・去勢手術のリスク
❌ 関節疾患(股関節形成不全・前十字靭帯断裂など)の発生率上昇
❌ 一部のがん(血管肉腫・リンパ腫など)の発生率上昇
❌ 尿失禁(特に雌犬)
特に、大型犬では手術の時期が関節疾患やがんのリスクに大きく影響することが研究で分かっています。
犬種ごとの推奨時期(35犬種)
UC Davisの研究では、35の純血犬種について、避妊・去勢手術の適切な時期を調査しました。以下に代表的な犬種の推奨時期をまとめます。
小型犬(~10kg)
犬種 | 推奨時期 | 早期の手術によるリスク |
---|---|---|
チワワ | 6ヶ月以降 | 手術の影響は少ない |
トイプードル | 6ヶ月以降 | 手術の影響は少ない |
シーズー | ♂6ヶ月以降 ♀2歳以降 | ♂手術の影響は少ない ♀ガンのリスク増加 |
中型犬(10~25kg)
犬種 | 推奨時期 | 早期の手術によるリスク |
---|---|---|
ビーグル | 12ヶ月以降 | 関節疾患リスク増加 |
コーギー | 6ヶ月以降 | 椎間板疾患のリスク増加 |
キャバリア•K•C•スパニエル | 6ヶ月以降 | 手術の影響は少ない |
大型犬(25~40kg)
犬種 | 推奨時期 | 理由 |
---|---|---|
L・レトリバー | ♂6ヶ月以降 ♀12ヶ月以降 | ♂手術の影響は少ない ♀ガンのリスク増加 |
G・レトリバー | ♂12ヶ月以降 ♀推奨しない | ♂関節疾患/ガンのリスク増加 ♀ガンのリスク増加 |
ジャーマンシェパード | 24ヶ月以降 | 関節疾患/尿失禁のリスク増加 |
超大型犬(40kg~)
犬種 | 推奨時期 | 理由 |
---|---|---|
グレートデーン | 12ヶ月以降 | 骨肉腫・関節疾患リスクを考慮 |
セントバーナード | 6か月以降 | 関節疾患リスク大 |
早見表(35犬種)
以下の表は横→や下↓にスライドしてみてください。
オス♂ | メス♀ | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
犬種 | 去勢をお薦めしない | いつでも | 6ヶ月以降 | 11ヶ月以降 | 23ヶ月以降 | 避妊をお薦めしない | いつでも | 6ヶ月以降 | 11ヶ月以降 | 23ヶ月以降 |
オーストラリアン・キャトル・ドッグ | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
オーストラリアン・シェパード | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
ビーグル | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
バーニーズ・マウンテン・ドッグ | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
ボーダー・コリー | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
ボストン・テリア | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
ボクサー | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
ブルドッグ | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
キャバリア・K・C・スパニエル | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
チワワ | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
コッカー・スパニエル | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
コリー | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
コーギー | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
ダックスフンド | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
ドーベルマン・ピンシャー | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
ジャーマン・シェパード | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
ゴールデン・レトリーバー | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
グレート・デーン | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
アイリッシュ・ウルフハウンド | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
ジャック・ラッセル・テリア | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
ラブラドール・レトリーバー | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
マルチーズ | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
ミニチュア・シュナウザー | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
ポメラニアン | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
プードル(トイ) | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
プードル(ミニチュア) | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
プードル(スタンダード) | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
パグ | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
ロットワイラー | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
セント・バーナード | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
シェットランド・シープドッグ | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
シー・ズー | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア | ✔︎ | ✔︎ | ||||||||
ヨークシャー・テリア | ✔︎ | ✔︎ |
体重別の推奨時期(ミックス犬)
純血種以外の犬の場合、体重別にリスクを分析した研究もあります。
体重 | 推奨時期 | 理由 |
---|---|---|
〜10kg | 6ヶ月以降 | リスクが比較的少ない |
10〜20kg | 12か月以降 | 早期手術で関節疾患リスク増加 |
20〜30kg | 12〜18ヶ月以降 | 関節疾患・がんリスクを考慮 |
30〜40kg | 18か月以降 | 股関節形成不全・がんリスクを低減 |
40kg〜 | 24か月以降 | 骨肉腫・関節疾患リスクを大幅に低減 |
まとめ
犬の避妊・去勢手術は、健康に良い影響を与える一方で、手術の時期によっては関節疾患やがんのリスクを上げる可能性があります。
✅ 小型犬は6か月以降で問題ないことが多い
✅ 中型犬は12か月以降が推奨されることが多い
✅ 大型犬は12~18か月以降が望ましい
✅ 超大型犬は24か月以降が理想的
手術の適切なタイミングは犬種や体格、性別によって異なるため、かかりつけの獣医師と相談しながら決めることが大切です。
もし避妊・去勢手術の時期で悩んでいる方は、ぜひお気軽にご相談ください!
参考文献
1. Hart, B. L., Hart, L. A., Thigpen, A. P., & Willits, N. H. (2020). Assisting Decision-Making on Age of Neutering for 35 Breeds of Dogs: Associated Joint Disorders, Cancers, and Urinary Incontinence. Frontiers in Veterinary Science.
2. Hart, B. L., Hart, L. A., Thigpen, A. P., Willits, N. H., & Assisting Decision-Making on Age of Neutering for Mixed Breed Dogs of Five Weight Categories: Associated Joint Disorders and Cancers. Frontiers in Veterinary Science.