院長ブログ
避妊(不妊)手術と去勢手術って何でするの?
2025.3.9
今回は、犬や猫の健康管理において重要な選択肢のひとつである 「避妊・去勢手術」 についてお話しします。
ペットの生活の質や健康を向上させるための手術ですが、メリット・デメリットをよく理解して、手術を行うことが大切です。
まずはじめに、院長として、避妊/去勢手術を行うことは、「推奨」しています。
避妊・去勢手術とは?
避妊・去勢手術は、ペットの生殖機能を外科的に切除し、繁殖や性ホルモンによる影響を無くす手術です。
- 避妊手術(雌犬・雌猫)
卵巣や子宮を摘出することで、発情や妊娠を防ぎます。 - 去勢手術(雄犬・雄猫)
精巣を摘出することで、生殖能力や特有の性行動を抑制します。
手術のメリット
病気の予防

特に、女の子の場合、乳腺腫瘍の発生率は、発情を経るごとに増加していきます。可能なら、初回発情前に行うことが推奨されます。
◾️避妊手術の時期と乳腺腫瘍の予防効果
犬の場合
- 初回発情前・・・95%以上
- 初回発情と2回目の間・・・92%
- 2回目と4回目の間・・・74%
- 卵巣摘出時期が2.5歳を境にその後の乳腺腫瘍発生率は急増します。
- 犬の乳腺腫瘍の50%が悪性
猫の場合
- 6ヵ月齢未満で実施・・・91%
- 7~12ヵ月齢で実施・・・86%
- 12~24ヵ月齢で実施・・・11%
- 24ヵ月齢以降・・・ほぼ効果なし
- 猫の乳腺腫瘍はメス猫における腫瘍の17%(高い発生率)
- 猫の乳腺腫瘍の80〜90%が悪性
行動面での改善
避妊去勢手術を行うことで、以下の行動上の異常なども低減することができます。特に、ワンちゃんの場合は、ご家族やご友人のお家でのマーキングを減らすことができるでしょう。また、猫ちゃんの尿臭の軽減は一緒に生活する上で必要になることもあるでしょうし、行動範囲を広げたいや生殖に関するストレスを低減することができます。

手術のデメリット
麻酔リスクと外科リスク
麻酔リスクは、術前検査をしっかり行うことで、ほぼ回避可能です。全身症状がなく、健康上の問題がなければ、麻酔リスクは以下になります。
- 犬の麻酔リスクは約 0.05%
- 猫の麻酔リスクは約 0.11%
◾️ASA分類〜American Society of Anestesioligists〜
動物種 | ASA分類 | 死亡率 |
---|---|---|
犬 | ASA2以下 | 0.05% |
ASA3以上 | 1.33% | |
猫 | ASA2以下 | 0.11% |
ASA3以上 | 1.40% |
外科的リスクには以下のようなものがありますが、適切な投薬や管理をすることで、大きな問題になることはありません。当院では、抜糸が必要ないように皮下で縫合していますので、ほとんどの場合、カラーも必要としません。
- 傷の感染症
- 術後の痛みや炎症
- エリザベスカラーによるストレス
肥満のリスク
- ホルモンバランスの変化によって代謝が低下するため、肥満になりやすくなります。
- しかし、食事量のコントロールや避妊・去勢後用のフードを使用することで回避可能です。

ホルモンバランスの変化による症状
尿失禁:発生率は 3%程度 で、リスクとしては考えられていますが、肥満などとも関連があり、体重管理は重要な予防策です。治療としては、ホルモン薬の投与などがあります。個人の感想としては、一時的で終わる印象が強いですが、生涯の治療が必要な場合もあります。
甲状腺機能低下症:避妊去勢手術関係なしに、発生率は0.2 % で、避妊去勢手術との関連性が疑われていますが、現在のところ確定的な情報はありません。病気に罹患した場合はホルモン治療が必要です。
手術の時期
猫・小型犬(〜15kg)
推奨時期は6ヶ月齢くらいです。猫の場合、早期の避妊手術を行う場合もありますが、尿失禁などの疾患への観点から、犬の場合は6ヶ月を目安とするといいでしょう。
大型犬(15kg〜)
推奨時期は12ヶ月齢から23ヶ月齢程度が望ましいです。
犬種や体重によって、変わります。去勢や避妊が推奨されない犬種もいるので下記ブログにて詳細を説明しています。をご参照ください。
まとめ
総合的に見て、避妊・去勢手術はペットの健康と生活の質を向上させる大切な選択肢です。愛犬・愛猫の健康を守るため、適切な時期に獣医師と相談しながら検討しましょう。
環境省から出ている避妊去勢手術のパンフレットです。わかりやすい絵で説明もあるので、参考にしてください。
参考文献
- Root Kustritz MV. “Determining the optimal age for gonadectomy of dogs and cats.” J Am Vet Med Assoc.2007;231(11):1665-1675.
- Spain CV, Scarlett JM, Houpt KA. “Long-term risks and benefits of early-age gonadectomy in cats.” J Am Vet Med Assoc. 2004;224(3):372-379.
- Reichler IM. “Gonadectomy in cats and dogs: a review of risks and benefits.” Reprod Domest Anim. 2009;44 Suppl 2:29-35.
- Small Animal Clinical Oncology, 5th ed., p.538-556, Elsevier, 2013.
- Royal Veterinary College. (2025). Neutering bitches trebles the risk of urinary incontinence. VetCompass. Retrieved February 5, 2025, from https://www.rvc.ac.uk/vetcompass/news/neutering-bitches-trebles-the-risk-of-urinary-incontinence